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こんにちでも、コロッケ、トンカツなどの″洋食″のつけ合わせには、きまったようにキャベツ刻んでくる。 生で食べる西洋野菜という意味で、キャベツこそは日本の庶民知り、愛していった、最初のサラダといえる。
また、日本人の庶民「サラダ」という言葉に最初になじんだのは、こんにちも御惣菜屋でよく売っているポテトサラダだろう。 昭和のはじめには今のような形で売られており、生野菜を食べるというよりジャイモのハイカラな食べ方という感じで、これもよく食べられていた。
長いあいだ、サラダといえばこのポテトサラダと思っていた人は多い。  今のような野菜サラダ1般化したのは戦後、それも、ここ十年ぐらいのことだろう。
サラダばかりは新鮮でいたみやすい野菜が材料だから輸入には頼れない。 その点、レタス、アスパラガス、タニ″プスなど、西洋野菜もどんどん日本で栽培されるようになったことは、サラダの爆発的な流行を裏書きしている。
サラダドレ″ジンクもいろいろなもの国産品にある。 塩辛い漬物には御飯、淡白なサラダにはパンと肉合う。

サラダの流行は食生活全般の洋風化を待ってはじまったのだ。 紀元前のギリシアの菜食の姿を大きく変えつつある。
ギリシアからヨーロッパヘ広まり、大西洋を渡ってアメリカで″完成″し、太平洋を越えて日本へ、長く遠いサラダの旅だった。 サラダやっと日本で流行しはじめたとき、野菜の農薬汚染が不安を感じさせるようになったのは皮肉である。
少なくともアメリカ式に腹いっぱいサラダを楽しむには、かなり勇気を必要とする時代である。 園芸の好きなイギリス人は十7世紀ごろに家庭菜園(キチソデソ)を流行させ、新鮮ないろいろのサラダ用野菜を作って、楽しんだという。
土地が高価で、スモ″グによごれた20世紀日本の″土1升金1升″の都会に住む者にとって、自分の食べる野菜を自分で育てて食べることは、最高のぜいたくになってしまったけれども。 西洋の女性の歴史はつぎつぎに家事を投げ出していった女の歴史だ。
16世紀ごろ、主婦たちは自分でパンを焼き。 バターやチーズを作り、お菓子を作り、子供の世話をし、糸を染め、織り、衣服を作った。
もちろん料理は毎日の仕事だった。 そのあいだにサラダも作った。
この事情は日本の女性についても同じかそれ以上である。 だんだんそれらの仕事を、完成品を店から買うか、専門職にまかせるかすることによって料理以外の仕事は放棄してきた。
料理こそは、最後に残った″家事″であり、家族どうしを結びつける唯1のものとなってきた。 今、加工食品の普及によって、近い将来、主婦は料理からも解放される時代がくると予測されている。

家庭はその残された最後の機能をも失ってどうなってゆくのか、だれも知らない。 サラダは加工食品にはできない。
サラダは、家庭での女性の唯1の楽しい仕事台所とテーブルの「食べる生花」として未来の食生活の中にも厳然として残るのではないだろうか。 「料理は芸術」などという説をなす人も多いサラダこそは、16世紀以来、″女性の芸術″の1つだったのだ。
めしとか御飯というのは、日本人にとって、食事そのものを意味する。 いや、「1度めしでもごいっしょに」と言うとき、酒を飲むことであり、うまいものを食うことではあっても、米粒は1粒も出ないことも多い。
日本人にとって食物とは米であり、食事とはめしを塩味とともに食べることにほかならなかった。 日本に多い″だし″類や味噌や醤油は、塩をマイルドな味にした″塩の味つけ″であったし、塩昆布、塩鮭、つくだ煮なども、要するに塩の変型にほかならない。
″米塩の資″という熟語(生活費のこと)は、こんな食生活を下地にして生まれた。 江戸っ子の夏目漱石ある農村へ旅行したとき、水田を見て「あの草は何か」とそばの者に聞いた、という話は有名だ。
私自身、日本人2世の学者夫妻を案内していたとき、「いたるところで見かけるあの禾本科植物はなんという名か」と、短躯、黄顔で、めがねをかけた、どこからみても日本人の中年男に見えるその学者に聞かれて絶句したことある。 汽車の窓から、平野のあるかぎりつづく水田は、たしかに目立つながめである。
漱石の話は、漱石自身、米どころである愛媛県松山の中学に奉職して『坊っちゃん』をものしたぐらいだから、稲を知らなかったというのもちょっとまゆつばだ、この話がめずらしい逸話としてのこっているほど、すべての日本人は稲を知っているわけである。 あまり見なれると、あたりまえの風景のように見えてくる。
日本人は水田と水田にゆれる緑、あるいは黄金色の″草″に、自然そのものを感じている。 そこに群れる雀たち、背景にしずむ夕日、夜そこで鳴きさわぐ蛙の声、それらは日本人が″自然″を考えるとき、必須の道具立てになっている。
たまに田舎へいく都会人は、「やはり自然はいい」などと深呼吸する。 水田が千数百年間、日本の自然、すくなくとも野の自然にとって不可欠の風景だったこともたしかだ。
じつは水田こそは人工の極みといってもよい。 海岸や陸地に住んで、陸生の麦や粟などの穀物を食べていた原日本人弥生式文化人におしえられて、耕作不便な、収穫量が多く、おいしい水生穀草である稲を沼地に植え、やがて低湿地にあぜをつくり、水田をつくっていった。

その様子は今日の宅地造成や建築ブムにも匹敵する、日本列島のすさまじい改造であったことだろう。 葦やほかの水辺植物の密生していた風景は、見るに整然たる区画の水田にかわっていった。
現在、耕耘機ですきおこし、化学肥料をふりまき、除草剤と殺虫剤をふんだんにふりかけて、稲のほかはいっさいの生物を拒否する密植の水田。 むしろ西洋の幾何学的な?(芝生)のある庭園のようでさえある。
日本人の歴史は、稲を手なずけてきた道だ。 そのあいだに、稲は野生の性質を失って、人間の保護なしにはそだたない、ひよわな、澱粉だけは豊富にたくわえる道具になってしまった。
みのると穂の重みにたえかねて頭をたれる稲の姿は、謙譲の美徳の象徴のようにされてきたじつはあのように重そうに穂その植物の1生にとってもっともたいせつな、自分の生を次につなぐための種子たちをたれ、ちょっとした雨や風でたおれてしまう植物は、植物としては奇型だという説もある。 外人学者は、日本人の米作りは、農業(agriculture)ではなく、園芸Orticulture)だなどといいう。
種まき、苗代、整然たる田植え、田の草取り、ヒエ取り多くは雨中、あるいは炎天下での気の遠くなるような労働だ。 いつくしまれ、なでさすられながら、稲はみのる。
こんにち、米作りほど政府の保護をうけている産業はない。 生物学的にも、政治的にも、日本の米は過保護なのである。
稲をいつくしみ、米にすがる日本の食生活は、米の食べ方を多様に変えてきた。 米の形としては古代の玄米から白米へ、料理法としては生米から焼き米、蒸し米、炊きめしへと変わり、だんだんやおらかくして食べるようになった。
耳の前あたりを″こめかみ″というのは、生米を食べるときにもっともよくつかう、つまり、くたびれる部分だからだ。 精白がおこなわれるようになったころから、日本人の宿病。
脚気″はじまる。 白米だけの生活によるビタミン欠乏は、明治にはいって、日本の栄養学の眼目となった(ビタミンB群は日本人学者によって、米糠からはじめてみいだされた)。


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